
産業保健師による健康コラム⑥☆要精密検査の放置はNG。高血圧の受診勧奨と企業の責任
目次
要精密検査の放置は厳禁!高血圧と企業の安全配慮義務
定期健康診断の結果は、「異常なし」であれば一安心ですが、「要精密検査」や「要再検査」といった判定が出た場合、皆さんはどのように対応していますか?「特に自覚症状がないから」「忙しいから」と放置していませんか?
企業にとって、従業員の健康は最も重要な財産です。このコラムでは、健康診断で異常所見が出た際の放置がもたらす重大なリスク、特に高血圧に焦点を当て、企業が果たすべき安全配慮義務と、従業員の皆さん自身に知っていただきたい早期受診の重要性について解説します。

「要精密検査」の放置が招く重大なリスク:高血圧を例に
健康診断の結果に記載される「要精密検査」や「要再検査」の所見は、「病気が潜んでいる可能性があるため、専門的な医療機関で詳しく調べる必要がある」という身体からの重要なメッセージです。
特に、高血圧は自覚症状がほとんどないまま進行するため、「サイレントキラー(静かなる殺人者)」とも呼ばれます。高血圧の状態が長く続くと、血管に常に高い圧力がかかり続け、動脈硬化を急速に進行させます。その結果、ある日突然、以下のような重篤な疾患を引き起こすリスクが飛躍的に高まります。
脳血管疾患: 脳卒中(脳梗塞、脳出血、くも膜下出血)
心疾患: 狭心症、心筋梗塞
腎臓病: 慢性腎臓病、腎不全
これらの疾患は、従業員本人の健康と生命を脅かすだけでなく、企業活動にも甚大な影響を及ぼします。業務中に突然倒れたり、長期休業を余儀なくされたりすれば、企業の生産性低下や、他の従業員への業務負荷増大につながります。

企業の責務:安全配慮義務と「放置厳禁」の理由
企業には、労働契約法第5条に基づき、従業員が安全で健康に働くことができるよう必要な配慮をする「安全配慮義務」が課せられています。
健康診断で異常所見が認められた従業員への受診勧奨は、労働安全衛生法上は【努力義務】とされています。しかし、この努力義務を怠り、高血圧などの異常を放置した結果、業務中に従業員が脳卒中などで倒れたり、最悪の場合亡くなったりした場合、状況によっては安全配慮義務違反として企業が損害賠償責任を負うという重大なリスクが生じます。
過去の判例においても、企業の健康管理体制の不備や、異常所見に対する適切な対応を怠ったことが、安全配慮義務違反と認定された事例は少なくありません。この重大なリスクを回避するためには、「要精密検査」の放置は厳禁です。企業は、単に通知するだけでなく、従業員に確実に医療機関を受診させるための積極的な対応が求められます。
◆リスク回避のための具体的な対応策
受診勧奨基準の明確化: 日本人間ドック学会の基準や、企業が独自に定める産業医の意見を反映した基準などを参考に、どの程度の異常値であれば「強く受診を勧奨する」のかを明確にした社内基準を策定し、全従業員に周知徹底します。
確実なフォロー体制の構築: 健康診断の結果を渡しっぱなしにするのではなく、受診状況の把握(受診報告書の提出)や、未受診者への個別的な再勧奨を継続的に行います。
行動変容を促すためのきめ細やかなフォローの重要性
「異常なし」と診断されてから数年が経過しているが、実は高血圧などのリスクを抱えている可能性もある。企業は、無自覚・無症状であるがゆえに受診を嫌がる従業員の行動変容を促すためのきめ細やかなフォローが不可欠です。
◆ 最も有効なアプローチ:医療職との面談の活用
最も有効なのは、【医療職(保健師や産業医)との面談】を積極的に活用することです。
専門的な知見からの説明: 産業医や保健師は、個々の健診結果の数値に基づき、「現在の健康状態を放置した場合の将来的なリスク(脳卒中や心筋梗塞のリスク)」と「早期に受診し治療を開始することの重要性」を、専門的な見地から丁寧に、かつ具体的に説明します。
受診への心理的障壁の低減: 従業員が抱える「忙しい」「どこの病院に行けばいいか分からない」といった受診への心理的障壁を取り除くための具体的なアドバイス(例:産業医から地域の専門医を紹介する、受診のための時間調整を行うなど)を提供します。

◆ 就業上の配慮の検討
面談を通して、従業員の健康状態が業務に与える影響を把握することは、企業にとって重要な責務です。健康状態によっては、治療と並行して業務を継続するために、【就業上の配慮】(例:残業時間の制限、業務内容の軽減、配置転換など)の要否を検討する必要があります。
こうした配慮は、従業員の健康を守ると同時に、疾患が悪化して休職や退職に至る事態を防ぐ、企業側のリスクマネジメントの一環でもあります。
まとめ
定期健康診断の「要精密検査」という結果は、従業員の健康を守るための最後の砦です。特に自覚症状のない高血圧などの異常所見を放置することは、個人の健康を脅かすだけでなく、企業の安全配慮義務違反という重大な法的リスクを招きます。
企業は、明確な受診勧奨基準と、産業医・保健師によるきめ細やかな面談・フォロー体制を構築し、従業員の行動変容を強力にサポートすることが求められます。従業員一人ひとりが自身の健康管理に真摯に向き合い、企業がそれを全力で支えること。これこそが、健康経営とリスク回避の両立を実現する鍵となります。
従業員の皆様へ: 「要精密検査」の結果を受け取ったら、決して放置せず、まずは会社の産業保健スタッフにご相談ください。早期の受診こそが、あなたの将来の健康を守る最も確実な投資です。
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